| 魔法少女リリカルなのはstsSS |
|
はやての好みのタイプ 作:紅夢
|
|
なのは、フェイト、はやて。 以下は修学旅行の夜に語られた内容である。 「私の好きなのタイプ? やさしくて知的なタイプかなー。 私の知らないことをいっぱい知ってるの」 「えっと、私はね。 年上だったら物静かでね、責任感が強くていつも人のことを考えてれる人かな。 年下だったら、目標にむかって精一杯がんばってる子を応援したくなるかな。自分を慕ってくれたら、その視線が可愛いかな」 「なんや、私もいわなあかんの? 私はね、しいていうなら――――――――――――」 6月4日ははやての誕生日である。同時にはやての前にヴォルケンリッターが現れた日でもある。 イベント好きのはやてがこんな日を逃すはずがない。ヴォルケンリッターももちろん心得ている。残業など残すはずもなく、家に全員揃っていた。 シャマルは誰に頼まれることでもなく、午後は有給をとって夕食を豪勢にするために腕を振るっていた。召喚されたころには未熟だった料理の腕も、今では見違えるほどに上達している。不安を感じさせない、てきぱきとした動きでサラダを盛り付けている。 ザフィーラ、リイン、シグナム、ヴィータと順に帰ってきて、最後に家主であるはやてが帰ってきた。 はやては挨拶もそこそこに自室に飛び込んでしまった。普段とは違う様子である。感情が爆発寸前、なにやら思いつめているようにも見えた。 「なぁ、シグナム、はやてに何かあったのか?」 「私は今日は古巣の武装隊の方に顔を出していた。主はやての姿は見ていない。見ているとしたら、リインフォースじゃないか?」 「リインのやつも結構はやてと別行動をとってるけどな。一応聞いてみるか。おーい、リイン、なんか知ってるか」 「直接は知りませんです。けど、仕事は早く切り上げて帰って行きましたよ」 「そりゃ変だな。はやては一番最後に帰ってきたぞ」 「なのです。私も帰ってきたときは変だと思ったですよ」 「何かあったとしたら、その時間にあったということか」 「そんな深く考えることないんじゃないかしら。案外、誰か男の子に告白されたとかかもよ」 シャマルは何か作業を行いつつ、背後に声を放る。 「はやてが告白かあ……。どうなんだ、シャマル。お前、そういうの興味あるだろ?」 ヴィータがただの時間つぶしがてらに、シャマルに話を振る。 「昼ドラは好きだけどね。難しいんじゃないかしら。人気はあるみたいだけど、地位が高いせいで高嶺の花扱いされてるところがあるみたいよ」 「その程度の障害でめげるやつなど、主はやてにはふさわしくないな」 「確かに遠巻きに見てるだけってのはちょっと勇気がないかもね。あと怪しいのはグリフィスくんかしら」 「あのユーノみたいなひょろいメガネか」 「レティ提督の息子さんだろ。もう少し敬意を示せ。年も近いし、補佐とポジションも近いな」 「でしょ。確かに一番ありそうなのよね。グリフィス君も気があるみたいよ」 「尊敬してるとは言ってたなー」 「でも、はやてちゃん、グリフィス君には普通に接しているですよ」 「確かにはやての方から全然そんな雰囲気を感じたことないな」 レティ提督とは時空管理局に入隊したときより、いろいろと世話をしてもらっている。家族ぐるみの間柄といえるかも知れない。グリフィスとは何度か顔を付き合わせたことがあった。 今ひとつピンとこないがもし一緒になったとしても悪くはないと、シグナムは思った。 「あ、はやてちゃん出てきたみたいですよ」 廊下を歩く音が近づいてくる。本人に聞かせてはいけない類の話である。話を切り上げた。 「みんな、ただいま。シャマル、料理やってもろうてありがとな。もう免許皆伝や」 「ありがとうございます。もう準備できましたよ」 やってきたはやては普段どおりだった。さっきまでの思いつめた様子はどこかに行ってしまっている。 シャマルは最後の料理をテーブルに運ぶと席に着いた。 さっき話していた内容もあり、シグナムははやての顔を見る。つられてヴィータやリインもはやての方を見ていた。 「そんなにちらちらと見られると照れるわー」 「すいません、主はやて」 すっとシグナムは軽く頭を下げる。そこまでする必要はないのに、とはやては苦笑いを浮かべる。この辺のまじめさはどうにかならないものかと思うが、それはシグナムの個性であり味だろう。治す必要はない。 ヴィータとリインのちびっこ二人はめげずにじーと見つめてくる。はやての様子がよっぽど気になっているらしい。 ザフィーラはよくわからない。動揺せずに最初と同じ格好で床に寝そべっている。 シャマルというと、笑顔の裏でいろいろと空想しているのが見て取れる。 食卓は変な雰囲気に包まれていた。はやてはふぅと息をもらす。 「本当は食後にでも話すつもりやったけど、これは先に話した方がよさそうやね」 「あははは……。はやてちゃん、ただならぬ様相で帰ってきましたから」 「そうなんか? うーん、次からはもうちょい気をつけるわ」 「じゃあ、食べながら話そうか。実はさっき好きな人に告白して来たんよ」 「は?!」 驚きの声が食卓の全体から上がった。 寝耳に水だった。はやてから告白することは想定していなかったのだ。 こうなると、はやてが帰ってきたときの表情の意味が違ってくる。 あれはどう考えても、オーケーされてきた表情ではなかった。雰囲気が重くなる。 ふうとはやてはため息をついた。 「みんな、気づいたみたいやね。そう、振られてしもうたんや」 はやてが言い終わると同時に、ヴィータが立ち上がった。その勢いで椅子が後ろに倒れて音を立てる。 すでに騎士服を装着済み、グラーフアイゼンを握る手もわなわなと震えている。 「はやてを振るなんて許せねえ! グラーフアイゼンですりつぶして生まれてきたことを後悔させてやる」 「落ち着け、ヴィータ。まだ私たちは相手の名すら聞いてないんだぞ。主はやての話を全部聞け」 経緯によっては、ヴィータに加勢するのも躊躇わない。腹の中ではそう考えつつ、シグナムはヴィータを後ろから羽交い絞めにした。 「離せぇぇぇっ。はやて、どこのどいつなんだ、その大バカ野郎は」 はやてはなんでもないことのようにその名を口にした。 「陸士108部隊長、三等陸佐のゲンヤ・ナカジマさんや」 「………………………」 リビングの時が停止した。 あれだけじたばたしていたヴィータも一時停止ボタンを押したかのように、変な姿勢で硬直している。 「まー、そんな反応をされるのは予想がついとったわ」 はやては苦笑を浮かべた。はやてとしても年齢差のことは自覚している。 リインフォースは 「私は納得しますよ、はやてちゃん。よくゲンヤさんと楽しくお話してたですよね」 「やっぱりリインにはばれてしまうかー」 「マイスターと私は一心同体です。研修では他にも色々回ったのに、ゲンヤさんのところには何かとちょくちょく顔をだしてるのは気がついてたですよ」 「下心だけやなく用事だってちゃんとあったんやで? スバルを預かる身でもあるしなー。親御さんにご報告や」 「そんなこと言ってー。世間話だけってのもあるですよね」 「あはははー。指揮官としての師匠だから、相談することがいろいろとあるんよ」 少々後ろ暗いところがあるのか、はやては目を泳がせる。 「はやてちゃんって親父……いえ年上趣味だったんですね」 しみじみとシャマルは言葉を選びつつ聞いてみた。いろいろ予想を張り巡らせていたシャマルとしても驚きの人物である。 死んだときの保険金目当て?という言葉がはやての告白を聞いたときに思い浮かんだのは秘密だ。 「恥ずかしい話なんやけどな、父性を感じるとめろめろーってなってしまうんや」 「めろめろってもう死語ですよ、はやてちゃん」 多かれ少なかれ、好みのタイプは異性の両親の影響を受けるものである。幼少のころに両親を亡くしたはやてにとっては、渋い男性の魅力は甘露のようなものかもしれない。そんなことをシグナムは考えた。 ヴォルケンリッターの中に男性はいない。ザフィーラは戦闘時を除いて基本的に狼形態をとっている。女性所帯で思春期を過ごしたはやてはより一層父性を求める感性を培ってしまったのかもしれない。主が困難な恋を抱いてしまったのはザフィーラにも責任の一端があるだろう。今度とっちめてやろう。 「事情、たまわりました。今日は全部忘れて騒ぎましょう」 もう終わってしまったことはしょうがない。シグナムは騒ぐのはあまり好きではないが、今日だけは主のために盛り上げることを心に決めた。かくし芸でレヴァンティンで風呂を沸かせと言われたら素直に沸かしてみせよう。 「ふふん、甘いでシグナム。この程度で夜天の主はめげへんよ」 「どういうことですか、はやてちゃん」 はやては不敵な笑みを浮かべる。シグナムは事情がさっぱり飲み込めない。話の先が気になってしょうがないシャマルが先にたずねた。 「こう言っちゃあれやけど、断られるのは予想がついとったからね。今日行ったのは宣戦布告というやつや。明日からはガンガンせめてくで!」 どんとテーブルを叩いて、はやてが宣言する。スターライトブレイカーと発射する寸前のなのはのようだった。一切合財を力技で片付ける強い意志に溢れていた。 ヴォルケンリッターの主ははやてである。ここまで言われて、従わないわけにはいかない。 脊髄反射でリーダーであるシグナムは背筋を伸ばし、仲間内に視線を走らせる。概ね協力することに反対する者はいないようだった。唯一ヴィータだけは憮然とした表情だが、反対するまでもないだろう。言いたいことがあるなら、すぐに反論するはずだ。 「はい、我らヴォルケンリッター、総力を持って支援します」 シグナムは代表として応えた。 「ありがとな。これからは色々と相談するわ。ギンガにも協力得られてるしな、じわじわと包囲網を狭めてくんよ」 シグナムは感心する。どういう手段を用いたのか、友人であるギンガはすでに懐柔しているらしい。年が近い友人が継母になってもいいというのか。大した度量だし、それを可能としたはやての手腕も大したものだ。機動六課を立ち上げたのも伊達ではない。不器用な自分が同じポジションにいても無理だっただろう。保護者を気取っていたものの、当に巣立っていたのだ。 「それにしても、すごく頭に血が上ってますね。よっぽど何かひどいこと言われたの?」 「そうなんよ! 私だって年の差を気にしとるんよ。だから、二十になる今日まで告白するのは我慢しとったんや。それなのになんて言ったと思う? 十年早いって即答されたわ。ひどいおもわへん?!」 普通に考えれば、十年早いという言葉はそれほどおかしくないと思える。なにせ二十歳近い年の差があるのだ。 そんなことを考えて皆が躊躇する中、一番手として同調したのはヴィータだった。幼く見えることで不利益をこうむっていることから、共感を覚えたらしい。 「そんなこと言うなんて、ゲンヤはひどいやつだな!」 「ヴィータもそう思うやろ。だから、ぎゃふん言わせてやるんよ。とりあえずは明日から弁当作って届けようかとおもっとるわ」 「はやての弁当が食べられるなんて幸せモノだな」 「そうや、料理の腕で、惚れさせたるわ! そうそう、明日の午前は私のスケジュールびっしりなんよ。確かザフィーラだけあいとったやろ。弁当の配達頼むわ」 「は?!」 暖かく見守るというスタンスで、子犬形態でソファーの片隅から話に耳を傾けていたザフィーラは飛び起きた。普段の寡黙な印象からは程遠い声を上げる。 本来の姿では荷物を運べない。ならば青年の姿をした自分が手作り弁当をゲンヤ・ナカジマに届けることになるのだろう。それはいろいろ犯罪ではないだろうか。 しかし自分ははやての騎士である。協力することに同意してしまった。もはや断ることはできない。 「わかりました……。明日の昼までに108部隊に荷物を運びます……」 「よろしくやで、ザフィーラ」 はやては自分の料理の腕前には自信がある。ナカジマ家の台所事情は知らないが、これは好ポイントなはずだ。弁当の宅配に目処がたったはやては語尾に音符が着きそうなテンションで応えた。 ザフィーラの背中に哀愁漂う。彼は哀れな被災者だった。惨劇の引き金を引いたヴィータは思わず、目を逸らしてしまった。 「んじゃ次、ヴィータには頼みたいことがあるんや」 「ええええ、な、なんだよ?」 ザフィーラの末路は見届けた。次は自分の番なのだ。ヴィータは覚悟を決める。 「難しいことやないよ。スバルとこれまで以上に親睦を深めて欲しいだけや。もしゲンヤと結婚するとしたら、一緒に生活することになるわけやんか」 「なんだ、それだけなのか。いいよ、はやて。スバルとトモダチになってやるさ」 「将来的には家族やでー」 上司と部下としてスバルとの仲は悪くない。ヴィータは大したことじゃなかったと、ほっと胸を撫で下ろした。 そんなやり取りを見ていたシグナムとシャマルがぼそぼそと会話を交わす。 「見たか、シャマル。主はやての手腕を」 「ええ、反対気味だったヴィータちゃんの不満をうやむやにしてしまいましたね」 「我らが知らないうちに主はやてにもいろいろあったのだろうな」 シャマルは小さく指を振って否定する。 「はやてちゃんがしっかりしてきたっていうのもあるでしょうけど、今のは単に恋する女の子は無敵ってだけだと思うわよ」 「確かにそうかもしれんな」 シグナムははやての将来のことを考えてみた。 いつかははやてが誰かと一緒になることを過去想像したことがある。そのときはやての相手として想定するのは年が近い人物だった。 想像したヴィジョンは今ひとつしっくりこなかった。外見の話ではない。はやてと一緒になるということは自分たちの主になるということである。若輩者がそうなるということに違和感があった。 自分たちはある意味、はやての連れ子のようなものになってしまう。はやて以外は年をとらないという特殊な一団だ。これを相手が受け入れられる度量があるのか気になる。 ヴォルケンリッターははやてとは別に住居を構える必要があるかもしれない。本心で言えばはやてと別れることなんてしたくないが、そこまでシグナムははやての幸福を願っていた。 しかしゲンヤとなるとどうだ。 まるで問題が見つからない。ギンガやスバルが家族となって、大家族となっても悪い気はしない。それに彼ははやてが尊敬するほどの指揮官なのだ。主と共に一家の大黒柱として、どっしり構えてもらえると心強いものがある。仕える主として悪くない。 「さー、明日からがんばるで。遅くなったけど、乾杯しよか」 シャマルが手伝い、各自に飲み物が配られた。はやての成人を祝って、地球より入手してきたシャンパンが各々に配られる。 「打倒、ゲンヤ・ナカジマや。そして今年も無病息災を祝って、かんぱーい」 グラスとグラスがぶつかり響きあう。 はやての恋の実りを祈って、夜は過ぎていった。 |
| | INDEX | END |